辛いものとコレが好きです
「新八さん、安部さんが傍に居る時、お姉さまのことを、姉と呼んではいけませんよ」

「えっ、なんで?」

「・・・弟だと思われるからです」

「僕、弟だけど」

「ロックオンされてもいいんですかっ!?」

「ろ、ロックオン・・・・・・?」

















ええ惜しかったですよ銀さんの隣は!でもあたしには、責任を持って安部さんの管理をするという重大な役目があったのです。

可愛い新八に手を出されてたまるか!!


あたしと壁の間に安部さんを挟んで着座した。
位置的に死兵軍団としかしゃべれないが、それもまたよし。

なんでか?


「そんなに兄さんを独り占めしたかったんですか、 さん?」

「兄さん、いい加減にしてください」


「兄さん・・・!」といちいち喜んでいる、この色気垂れ流し品行方正眉目秀麗30代変態男がお妙さんとか九兵衛さんとかをひっかけてしまう可能性を少しでも減らしたいし、お妙さんが阻止してくれるとはわかっていても、小学校的だとしても、九兵衛さんと銀さんの学園ラブコメを見るのは辛いだろうから。

流れる沈黙をぼーっとやりすごす。
安部さんが隣で、新八君に兄さんって呼んでもらうためには・・・とか不穏なことを呟き始めたので、首の後ろにチョップを入れてやった。
うん、全然効かないんだけどね。腕力欲しい。握力も欲しい。りんご握りつぶしたい。
沈黙に耐え切れず、新八が必死にアイコンタクトとってくる。
僕達席はしっこ同士じゃないですかー。・・・わかってるわかってる。この沈黙の中、あたし以外頼りになる人が居ないんだよねー。うん、優越感。

気がつかないフリをして、無表情を装って、畳の目に爪を引っ掛けて弾く。ぴん、ぴん。
あともう少し。ぴん、ぴん。


「すまない」


ふおお・・・ナマ桂さん!
あたしは内心ワクワクしながら会場の反応を見守る。


「ヅラお前もかァァァァ!!!」

「あなたもですかァァァ!!!」


銀さんが記憶喪失の桂さん(抱きついた近藤さん込み)に飛び蹴りをかます。
それをものともせず(いや、一応『ぶぉほぉぉぉっ!!×2』とかいうリアクションはあったけれども)、記憶喪失談義を始める記憶喪失ターズ。

みんな和やかになってきたな。よし。

ふふふ、あのねー。女子同士男子同士盛り上がってるとはいってもね、ここは合コン会場ですよ?
記憶喪失ってる桂さん近藤さんはともかくね、女性陣は一応期待しちゃってたりするんだなー。


「お名前、なんておっしゃるんですか?俺、 といいます」


漫画でみたときから実はちょっと可愛いと思っていた死兵軍団の一人に声を掛ける。
悪いか!お妙さんだの九兵衛さんだのさっちゃんだのをナンパする勇気はないもーん。
いや、無難に神楽ちゃんと話してもよかったんだけど、席遠いし。合コンの意味ないしね!

武州村と名乗った彼女は、ちょっと痩せすぎだけど、色は白いし、髪は綺麗だし、鼻筋はすっとしてるし、充分『当たり』だと思うぞ、あたしは。

あ、笑うとますます可愛い。
にこにこ。にこにこ。
あーーー平和だーーー。

銀魂レギュラー陣の声をBGMに、のんびりとーく、っと。
なぁぁぁぁんて贅沢!良いだろ良いだろ!みんな羨め!うーらーやーみーやーがーれー


「九ちゃん、ダメよ。そんなキノコばかり残して」


・・・ん?キノコ?

おぉ・・・?

・・・キノコ?


「おい、よこせよ、キノコ」


来てたァァァァァァァ!!!!!!油断しかけてたらあっさり来てた!!!
ああもうこれからしばらく耳塞いで「ああああああああ」って言っときたい!

大丈夫、大丈夫だあたし!違うことに集中するんだ!


さん?」

「あ、すみません」


武州村さん声も可愛いよね。なんで男どもは君の魅力に気がつかないんだろう。
って言うかあたしなんで合コン来て端っこキャラの魅力発掘してるんだろう。
折角色々いるのに全然絡んでねーじゃんさー。
少なくとも桂さんとエリザベスとは絡んでおかないと多分船フリーフォールった後逃げるだろ、こいつら。
よし絡もう絡もう!

・・・え?自棄?バレましたか!

気がつくと、安部さんが隣で残りの死兵を全員(銀さんに気があるあの子除く)相手していた。みんなちゃっかり席移動してるよ。
さすがと言う他ない。

さらに気がつくと、桂さんは近藤さんとユニットを組み始めていた。
あちゃー。


「エリザベスさん」

『・・・なんで僕の名前を』


じ、字がへろへろォォォ!!!落ち込んでるよ!桂さんに忘れられて落ち込んでるよ!


「大丈夫ですよ、すぐ思い出しますよ」

『マジあいつ記憶戻ったらぶっ殺す 日頃の恩を忘れやがって何様のつもりだっつーの』


怖ぇぇぇぇザベス怖ぇぇぇぇ!!!


『なーんてね!』


えー冗談かよー。怖いよー。
やっぱりエリザベスさん怖いよー。


「武州村さん、こちらエリザベスさん。エリザベスさん、こちら武州村さん」

「よろしくおねがいします」

『こちらこそよろしくお願いします』


パーティにエリザベス参入!
3人組になったぞ!しかし痛いのは、エリザベスさんのターンの時に、実質上沈黙が流れることですね。
なんで沈黙が怖いかと言うとですね、


「ヒューヒュー」


ほぅら原作が聞こえる原作が。安部さんのせいで1人っきりになってしまった冷やかし勢が出動中。


「そんなこと言ってさァ、ホントは『お前』が銀さんの事好きなんじゃねーの!?」

「そんなんじゃ・・・・・・・・・ないわよ」


うわお原作よりあからさまっ!
銀さんかわいそっ!


お妙さんが、安部さんと話している軍団をうらやましげに眺めている。
気持ちはわかるけれども、ね。
お宅の弟さん狙ってるヤツですよー。
近づいてきたら弟さん狙いと見て間違いないっすよー。


さんはマヨ派ですか、ケチャ派ですか?」

「ケチャップの方が好きです。あ、でもこの前スルメにマヨネーズつけたら美味かったな」

『イカは足が美味しいですよね』

「俺はエンペラも好きです。あの・・・イカソーメンとかになってるとこ」

「ああ!イカソーメン美味しいですよね。当たり目も好きですー」

「当たり目はちょっと・・・『もう一歩』って感じ、かな」

『皆さん裂きイカはどうですか?』

「私、イカ全般いけますよ!」


何このイカトーク!合コンの会話じゃねー!いや、こんなモンなの?合コンってこんなもん?
こちとらしがない共学高校生ですからー。合コンとか縁ないですからー。
でも武州村さん好きだな。ホントに友達になれそう。メアド交換しよう。

・・・あ、パソコンのメアド使えるだろうか。・・・・・・ってかパソコン!!
メアドもし使えたらアレだよ、向うの世界とばっちりつながれるじゃん!やってみよう!まじやってみよう!帰りにネカフェ行こう!


「ヘイ!ワンツー、ワンツー、サンシー」

ジャジャーン


記憶喪失ターズ、もう演奏始めてるし!桂さん最初っから合わせにくいことこの上ないよ!
信じられない、この二人のテンション凄い。


『柿ピーは?柿7:ピー3』

「私は・・・そうですね、柿4:ピー6、くらいかなぁ? さんはどうですか?」

「俺は断固として柿10:ピー0派ですね。柿の種大好きです。ピーいらない」


やっぱり合コンじゃないでしょうこの会話は。
エリザベスさんともメアド交換したい。


「すみません、お二人とも、メールアドレス教えていただけませんか?」

「あ、いいですよ」

『赤外線でいいですか?』


スチャ。スチャ。
すかさず携帯電話を構える二人。
ごめんなさい持ってません!


「俺、パソコンのしかなくて・・・」


しかも使えるかどうか問題なやつ。というか、使えたら問題なやつ。


『あ、そうなんですか』

「じゃあ先に私達は赤外線しましょう」

『武州村さん送信してください』

「わかりましたー」


あー羨ましい。あー疎外感。


「あ、じゃあ俺、アドレス紙に書くんで・・・」


ズゴゴゴゴゴゴ


「!!!」

「わっ」

「ちょっ」

「船が・・・」

「これは!!」

「いやったぁぁぁ!!!!」


ついに来ました!来ましたよ飛行船!

部屋が傾く。
皆さんが滑っていく。
衝立が滑っていく。
料理が宙を飛ぶ。
頭に水がかかったが、そんくらいは気にしない。
皿でも当たって気絶して、そのあとの騒ぎを楽しめないよりゃマシ。

体が風を切る。

シュザァァァ!

やべぇ、楽しすぎる。


ズガゴン!


「あーれー」


三味線のおじいさん!
大丈夫ですか!!!
滑りながらおじいさんは何か呟いていた。


「やべぇ、楽しすぎる」


同志かよ!!!!


「おじいさん!!楽しいですね!」

「ウン。これまでの人生で一番楽しい経験かもしんない・・・うひょー!」

「おじいさんうひょーて、うひょーて!あっははははははははははは!!!!」

「ぎゃはははははは!!!」


シュザァァァ!


テンション高い時ってツボ浅くなるよね!
あたしとおじいさんは爆笑しながら一緒に滑り落ちていく。


「九兵衛さん!!」


叫び声が聞こえて、今まさに滑っていこうとしている下の方の入り口(だったところ)に新八と銀さんがひっかかっているのが見えた。


「桂ァァァァァ!!」


上からは近藤さんの大声が聞こえる。
と、言う事はですね。


「やばいっすよおじいさん!ここ位置的にやばい!」

「えー?よく聞こえなーい・・・うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

「やばい、と思ったけどそうでもないっぽいですぃやっほーい!!」


シュザァァァァァ!!!

ドゴ


「ぅえぶ」


ドゴ


「ぶっ」


いえーいコンボコンボー!!
桂さんに蹴飛ばされたあたしは銀さんの背中にタックルする。


シュザァァァ
ぎゃぁぁぁぁ


「銀さんんんんん!!」

「あっちゃー銀さん速い!行っちゃいましたね!あっひゃひゃ」

君!?あっひゃひゃじゃないよ銀さんアレ危ないよ!」

「だーいじょーうぶですよー。ちょっくら俺も行ってきまーす」


ひょい


「うわあああ 君が飛び降りたぁぁぁ!!」

「銀さーん!待ってくださーい!」


何か叫んでる銀さんまであと少し!
こっちは滑ってないからね!ほとんど飛んでるからね!
摩擦がない分あたしの方が速いの!


「ここ・・・こうなりゃやるしかねへぶっ!」

「追いつきましたよ銀さん!」

「追いつきましたよじゃねーよなんで落ちてんの!なんで落ちてんの!」

「しーっ!しーっ銀さんそれ禁句です!諸事情により禁句!」

「は、何が禁、うわああ通り過ぎる!九兵衛通り過ぎちゃう! 君大人しくしてなさい!」

「オッケェー、我が命にかえても」

「なんか聞いたことあるんだけど!なんか聞いたことあるんだけどソレ!」


ガザザザ


「九兵衛ェェェェ!!!」


銀さんはあたしと喚きながらも、九兵衛さんから意識を離さず、全身使ってブレーキを掛ける。
あたしもくっついてるってのにこの人は本当に凄い。


ズガガ


ここに掴まってろ!」


ひょいと手すりに乗っけられた。
掴まってろって・・・オイオイオイあたしの運動神経の無さなめてんじゃないかい君は?
これに乗っかるの何秒もつか!

必死にバランスをとる。
コレできてるの奇跡だからね!飛行のハイテンションによる奇跡だからね!!


ドサッ


「!!」


声に隣を見ると銀さんと九兵衛さんが入れ替わっている。
わお、ミラクル!じゃなくて!

あたしは慌てて九兵衛さんの場所まで重力を利用してすっ飛ぶと、当てずっぽうに手を伸ばして、体も半分宙に投げ出して、銀さんの手を掴んだ。
銀さんの目が大きく見開かれる。




「・・・フラグは立てさせませんからね」

「フラグてオメー」


ハイ 君悪い人ー。
銀さんの格好付け台詞とっちゃった!
シメがないんじゃもう終わらんじゃんこの話。
だってイヤだったんだもん!悪いか!


「柳生さん、悪いんですが、ちょっと手伝ってくれます?俺、筋力ないんですよね。体半分外だし」

「・・・最初から僕にやらせておけばよかったのだ」

「いや、銀さん投げ飛ばされても困りますしね」


ニヤリ笑いを頑張って作る。むしろ頬の引き攣りと言ったほうが近いものがある。
九兵衛さんの白い手があたしの手に添えられた。


「ありがっ・・・!!!」


くるり。
視界が反転する。
目の前を凄い勢いで銀さんがよぎった、気がする。


ドガ

ドグシャ!


「あだ!」

「っ!!」


体の右半分を船の壁に叩きつけられて息が詰まる。
ぐしゃりとうつぶせに倒れた。


!」

「ぶ」


そしてまさかの二段階衝撃。
先に船にぶつかっていた銀さんが時間差で背中に落ちてきた。


「すまん、二人共。つい・・・」

「ついじゃあるかァァァ!!!」


さすが銀さん。立ち直り早っ。
でも背中の上であんまり騒がないで下さい。痛いです。


「銀さん、コレ、退けます?」

「がんばってみるわ」

「でも僕も頑張っただろう?船の方に投げるようにしてみたんだ」

「そこまで頑張れたならもうちょっと頑張れや」


うう・・・息が詰まった上に胸郭押さえつけられて、かなりきつい。
でも銀さんだし・・・。
束の間の幸せを味わっておくべきか、でも酸素足りねェェェェ


「何をやってるんですか さん」


美しい声が聞こえ、体の上の重みがなくなった。
それと引き換えにやってくる痛みにしばらく耐えてから、いっきに息を吸い込、もうとしたけどむせた。


「げほごほがはっ・・・はぁ、新鮮な空気」

「・・・離せ」

「言われなくとも」


安部さん、ありがたかったけど、遅いよ。もうちっと早く来てくれれば九兵衛さんに投げ飛ばされずに済んだのに。
それでもお礼を言おうと涙目で安部さんの方を見ると、銀さんを見下ろしてその上、ぴりぴりしていた。失礼なヤツめ!
絶対アレは、持ち上げた銀さんを杜撰に扱ったに違いない。


「安部さん、何をしてるんですか。銀さんに」

「そうですね、曲がりなりにも さんがお世話になってる方ですからね」


そんな顔してないじゃないか!なんで安部さんそんな敵意むきだしなの!?銀さんが新八君と仲良しだったからか!?そうなのか!?


「あのね、安部さん。新八さんは銀さんとこに長く勤めてる人ですからね、仲良しも仕方ないんですよ?」

「・・・は?何の話ですか?」


安部さんが怖いぃぃぃ。
なんでそんな声出すわけ!?さっきまで死兵軍団にはあっまあまな声出してたじゃないかぁぁ。


「ち、違うんですかてっきりそうかと・・・すみません。でも、銀さんは俺の好、尊敬するお方なんですから、」

「そこですよ」


安部さんがあたしの話を遮って長い指であたしを指す。


「は?」

「だからそこが気に食わない。あなたはこの男のどこにそんなに心酔したんですか」

「そう来るとは思わなかった!うわあ!なんなんですか安部さんそんなの聞いてどうすんですかていうかどこってそんなん限定できないし、そうですね強いて言うなら全部ですかね!」

さん、あなたアレですね、動揺すると早口になりますね」

「・・・・・・放っといて下さい」

「うちの店には寝泊りしてる方もいらっしゃいます。衣食住が心配ならうちで生活すればいい。この男に頼るよりよっぽど楽をさせてあげられますよ」


あたしですかぁぁぁ!いや、気に入られてる事はしってたけどね。ていうかあからさまだったけれどもね。怒ってくれるほどまでとは思ってませんでした。ごめんなさい。
でも安部さん、銀さんのことを過小評価しすぎ。銀さんのどこがダメよ?
さあさあ言ってみろ。百文字以内で述べてみろコノヤロー。


「大体、あなたもそんな無理をしないですむ」


安部さんがさっと視線をあたしの体の上から下まで動かした。
なんのかんの言っても、男装のことを口に出さない安部さんは誠実な人だ。


「うちに来れば毎日好きな格好ができます。いい物しかありませんから」

「でも、それは違うでしょう、兄さん。俺がこの格好じゃなかったとして、兄さんは俺に兄さんって言われて嬉しいんですか?」


安部さんが「今気がついた!」と言う顔をした。
わかりやすい。


「そこは間違えちゃだめですよー。兄さんのお気に入りは、この格好の俺でしょーが。この格好で健気にがんばってる、 君でしょー?」

「はいはーい」


銀さんが座ったまま手を挙げた。


「ハイ坂田君、どうぞ?」

「先せぇーい、僕、話がわからないんですけどォ」

「・・・坂田君はまだわからなくていい話です!」














[2009/05/03]

もうちょっと続きます