でも、
君のバベルの塔は汚れてる気がしないですよねー
なんて馬鹿な事を言いやがった新八に、俺と神楽の蹴りが炸裂したことは言うまでもない。
しかし大丈夫かね。
「この変態!変態メガネ!アイドルオタク変態エロメガネ!!」
げしげしげしげしげし!!!
神楽が既にぼろぼろになった新八を容赦なく踏みつけている。
内臓破裂とかしてねーかなアレ。
ふぉふぉふぉ。
あたしは心の中で高笑いをする。
東城さんはバベルの塔建設の話をしだすし、銀さんは合コン言い出すし。
やっぱり合コンのお話だったですよ!あたしアレ好きなのー。
だって最後に屋形船飛ぶじゃん!そしてフリーフォールるじゃん!
あの感覚がたまんない、だろうなぁと予測する。
フリーフォール好きだもの!愛してるもの!
いくら寝不足でもフリーフォールには替えられませんわ。
「たっなかさん、あっそびましょ」
あたしは小声で門の前で歌う。
「
さんじゃないですか。今日は休みでしょう?」
「田中さん、今日出られますかー?」
あたしの職業はホストだと思い込んでしまっている銀さんから、職場の仲間連れて来いと言われてしまったのだ。
高天原の人たちみたいに、週末はウチも忙しいので、と言ってもよかったのだし、事実週末は忙しいので、新米のあたしにはまだ早いからと言ってシフトを外してもらっているのだけど、友達の一人も連れて行けないようでは銀さんに心配されそうだし、ここで田中さん(仮)という存在をもってしてあたしが男であるという確固たる信頼を築いてみるのもいいかなぁと思ったし、まぁ、ぶっちゃけてしまえば、それは建前で、全ては見栄の為だ。
田中さん(仮)は30代も半ばの身であるが、まだまだ美青年の域に入るうつくしい男の人で、女の人の相手がうまそうだし、節度ありそうだし、性格も頭もよろしいので、きっと皆さんとお友達になれる、というか、
君自慢の友達になれるぞ!と目論んでみたのだった。
それに、おねーさん方にはそれぞれお得意様が居て、抜けるに抜けられないだろうが、田中さん(仮)は番頭さん(仮)だ。
一日くらい店を出ても構わないだろう。
「
さん、私の名前は安部です。それに、そう簡単に店は開けられませんよ。私がこの店の経理全般を扱っていますので」
「えーっ。それ、誰にお願いしたら許してもらえるんですか?直談判しにいきます直談判!」
安部だったのか!安部さん(確定)は、ははは、と笑ってとりあってくれない。
きっと冗談だと思ったんだ。このやろめ!
「あべさーん。あたし頭数揃えて来いって言われちゃって・・・・・・全然足りないんですよぅ」
それは本当だ。お妙さんの死兵軍団も入れたら女子陣の方がかなり人数が多かった筈だ。
そういえば、今日お妙さんにも会えるんだなー。このまま上手くいけば。
初対面の人ばっかりだ。多分今日の合コンで、誰を落とす気もないのに(銀さんを除く)一番ドキドキしてるのはあたしになると思う。
「
さん、合コン出るんですか?」
「はい?そうですけど?」
「それはダメですよ」
お店の規則で決まってる筈です。と安部さん(確定)が厳しい声で言う。
お店に入って一ヶ月は、合コンの類に顔を出してはいけないらしい。
「だーいじょうぶですよぅ」
「バレるバレないの問題でなくて」
「あたし男として出ますから、大丈夫です」
だから安部さん、一緒に行きましょうよう、とおねだりする。
安部さんはほとほと困った、という顔をした。
多分だけど、安部さん(確)は子供に弱いのだ。
子供に弱いか、それか、健気に男装してるあたしに弱いのだ。
「誰も連れて行かなかったら、怒られてしまうかもしれないなぁ・・・」
顔を俯かせながらそう言って、最後にちらりと上目遣いで目を合わせる。
我ながらわざとらしい演技だが、これぐらいが好きなタイプだ。絶対。
案の定安部さんは、くっ、とかいう唸り声を出し(こういうわざとらしいのが好きなタイプだ。絶対)、溜息をついて、
「『正明兄さん』って呼んでくださるなら・・・・・・」
と言った。
ああ。
そっちね。
そっちですか!!
「なんですか?兄さんは妹萌えなんですか」
「え?いや、妹でなくおと」
「あ、それ以上言わないで下さいわかりましたから」
うわあ!さらに「そっち」ですか!かっ、かくなるうえは・・・・・・新八君を死守せねばなるまい。
「へぶしっ!」
「何アルか糞メガネ。花粉症アルか」
「花粉症馬鹿にすんなやァァァ!!!」
どーも、内臓破裂しかけた方の志村です。
とくに血を吐いたりしてないとこみると、僕の内臓も常人より強くなってきてるのかもしれない。
日々化け物たちと過ごしてるお陰です。ありがとう化け物。
なりきりラッパー桂さんとストーカーズと独眼竜と死兵を率いた姉上と衝撃の出会いを済ませて、今は
君とお友達を待ってるところです。
君のお友達、可愛い女の子いないかなぁ。
このメンバーだと、一番可愛いのは姉上だしな。さっちゃんさんも顔は可愛いのかもしれないけど、アレだし。可愛いとは思えなくなるもんですね。
君の友達に思いを馳せながら、石の隙間に生えている雑草を踏み潰していると、突然隣から、ごっ、と言うような音が聞こえた。
ぎょっとして銀さんを見ると、背中やら目やらから炎が吹きだしている。なんだなんだ。何にそんなに燃えてるんだ。
もしかしたらあの死兵軍団にグラマー美人が紛れ込んでいたのかもしれないと銀さんの視線を辿ると、こちらに大きく手を振りながら歩いてくる
君がいた。
君より頭一つ以上背の高い、遠目に見ただけでモテそうだと分かるハンサムさんを連れている。
「銀さーん!!」
叫びながらぶんぶんと手を振る
君に、その人が何か声を掛けた。
君は僕達から視線を外して、声を立てて笑う。
銀さんが輪をかけて不機嫌になる。めらめら。
「・・・いけ好かねー」
ああ、
君のお友達が意外といい男だったのが気に喰わないようだ。
合コンで自分よりいい男が居るのはきっと嫌なのだろう。
「よっこらせ」
エリザベスが桂さんを、僕が近藤さんを抱えて立ち上がる。
あ、近藤さんをどっちが持っていくかはさっきじゃんけんで決めました。
「その方、私が運びましょうか?」
「・・・え?いいんですか?」
やっぱりさすが重たいなぁ、と内心溜息をついていると、いつのまにか傍に来ていた
君のお友達のハンサムさんが親切にも申し出てくれる。
「ええ、もちろん。君のような子にこんな物はもたせられませんよ」
「は?よくわかんないけどありがとうござ・・・」
「新八さん!!!!その人に近づいちゃだめです!!!!!」
ぜえはあと肩で息をしながら
君が必死の形相で叫んだ。
やっぱりあそこからここまで、距離あったよね。
この人なんで息も切らせてないんだ。
君が来るのを待っていた銀さんが、目を丸くして
君を見つめている。
こんなに必死な
君が珍しいんですよね。分かります。
君は疑問で一杯の僕の肩から近藤さんを引き剥がしてハンサムさんに押し付けて僕の腕をつかみ、さ、いきますよ新八さん、と言ってさっさと歩き始めた。
慌てる僕と、何かに怒っている
君の二人の背中に、ハンサムさんの美声が掛かる。
「待ってくださいよ『
』さん」
「・・・・・・なんですか」
「頼まれてあげてもいいんですけど?」
君は凄くいやそうな顔をした。
それから、近藤さんを抱えたハンサムさんのとこまでずんずんと戻って、す、と息を吸ったかと思うと、
「お願い、正明兄さん」
語尾にハートの付きそうなそれを聴いた瞬間にまた銀さんから火の手があがるのが見えた。
「仕方ないですね、『
』」
にっこり、と笑みを浮かべて『正明兄さん』は近藤さんを背負いなおす。
ふぅ、と安心したような溜息をついて
君がこちらに戻ってこようとする途中で、銀さんが
君の腕を掴んだ。
びっくりして銀さんの手を見ている
君の腕を掴んだまま、ハンサムさんに食って掛かる。
「ちょっとお宅、誰?自己紹介、聞いてないんですけど」
「おや、名前を聞くときはまずご自分からが基本では?・・・白夜叉さん」
「え、安部さんどうしてその名前をっ!どうしてしってるんですか!ずるい!」
それを聞いて訳の分からない慌て方をしたのは何故か
君だった。
というか、
君が慌ててくれたお陰で銀さんが慌てずに済んだというべきか。
「その名前は口に出さないでくれますかね、おにーさん。お兄さんの背負ってるそのゴリラは一応けーさつのモンなんでね」
「それは失礼しました」
ひんやりとした空気が流れる。
僕は手のひらにじっとりと汗が滲むのを感じた。
君は沈黙に疑問も湧かないのか、隣でまだ、安部さんめどうしてしっておるのだ、とかぶつぶつ呟いている。
僕は何かとりなす言葉を出そうと、口を開きかけた。
「ん・・・?俺は・・・どうしたんだ」
そのとき、それこそ空気を読まずに近藤さんが、ハンサムさんの背中で声をあげた。
「あ、近藤さん!大丈夫ですか?」
さっきまで唸っていた
君が明るく声を掛ける。
近藤さんはのろのろと
君の顔を見て、それから、首をかしげた。
「・・・君は・・・誰だ?」
「てめぇっ」
君の顔が青ざめた。
銀さんが
君を引き寄せようとしたのか、腕を引いて、でも気を変えたのか、
君の手をぱっと離して、近藤さんをハンサムさんから引き摺り下ろした。
引き摺り下ろした近藤さんを無理やり立たせて胸倉を掴む。
紋付を着た男が、袖の破れた皮ジャンを着込んだ男のその皮ジャンの『胸倉のようなところ』を無理やり掴んでいるのは、少々滑稽だった。
「てめェ、今すぐ撤回しろ。
に謝れや」
「いや、すまん。だが本当に覚えていないんだ」
「い、いいんですよ銀さん!」
気を取り直した
君が慌てて銀さんの袖をひっぱる。
「多分本当に記憶喪失です、近藤さん」
どこか自信があるように
君がゆっくりと言った。
銀さんは皮ジャンから手を外して、しばらく手を
君の頭上で彷徨わせた後、頭を撫でた。
「だとしてもよォ、
ンこと忘れるなんざァ、ちっとばかし酷ェじゃねーか。なァ?」
「大丈夫ですよ」
君はさっきの顔が嘘であったかのようにぱっと明るく笑う。
銀さんは、そォか、と呟いて、僕達に背を向け、
君の背中を軽く押して出発を促し、自然と隣に並んで歩き出す。
「あらら、この方はお上じゃあなかったんですかねえ」
ハンサムさんが皮肉っぽく、わざと銀さんに聞こえるように呟いた。
[2009/04/27]