今年の流行

私の彼氏はそれはもうすごく凄まじく甘いものが好きでどんくらい好きかと言うと一日の砂糖摂取量が推定1キログラム、とまあそれは大袈裟かもしれないが、それくらい極度な甘党なわけだが、その甘党の彼氏がバレンタインなんて行事を見逃すわけがないというかなんというか、でも私も日頃は「女の子」らしいわけではないし周りからも「女の子」らしい扱いを受けていないのでバレンタインである今日ぐらい実はかなり自信のあるお菓子作りの腕前を発揮して彼氏とクラスメイトを感心させてやろうと思い、味にめちゃくちゃ五月蠅そうな彼氏対策に材料からしっかりこだわって、いつもは手を抜くところを丁寧に丁寧にやって、例えば卵を溶くのにすら時間を掛けて、見た目にも味にも満足の行くチョコレートケーキを焼き上げ、10センチのワンホール全部銀時のだよって言ったらすっごく喜んでくれるだろうなぁ、と柄にもなく乙女ちっくに胸を弾ませながらそのケーキを、昨日買ってきたピンクが基調の可愛らしい箱に入れ、その箱とセットになっていた紙袋に静かに安置し、ケーキの形を少しも崩さないように注意を払ってゆっくり歩き、でも銀時より早く着くためにいつもより早めに登校した、のだが。

「おはよう銀時・・・」

「おー」

しん、とした廊下を少しわくわくしながら歩いてきて、ガラリと教室のドアを開けた瞬間に目に入ったのはマイスウィートハニーでした!
それはいいのだよ。それだけなら少しも問題ないのだけど。

「・・・何してんの」

「ちょっと待て・・・あともうちょっとで苺の配置が決まるから」

何故私の昨日まで何の変哲もなかった机の上一杯にこれまでの人生でお目にかかったことのないような巨大ケーキが焼かれているのでしょうか。
何故そのケーキは現在進行形で私の彼氏が作っているというのにそこらへんのケーキ屋さんではお目にかかれないほどディティールに凝っていて、甘党でない私が思わず喉を鳴らすほど美味しそうなのでしょうか。

(・・・なんてこった・・・っ!)

50センチ×70センチ×30センチ(目測)のその美しいケーキと、ちょっとケーキから離れて全体を眺めてみたりして真剣に飾り付けを実行している銀時と、これからぞくぞくとやってくるであろうクラスメイトたちが驚き呆れる幻影が、『逆チョコ』というなんか聞いたことがある気がする単語と一緒に、どっと私に襲い掛かってきたのでした。

 


今年の流行り?嘘だろそんなの知らねーよ!




「ウソ ちゃん手作りして来てくれたの?絶対『今年は逆チョコ』とか言ってくれもしないと思ったのに!」

「・・・うん・・・これ・・・食べる?」



(あああああ認めたくないけど霞む!霞みまくる!)




突っ込む暇もないほど動揺。


2009/02/14



モドル