本人は四苦八苦

「銀ちゃんが変アル」


神楽ちゃんがこそっと僕の耳元でささやいた。


確かに。銀さんは今日、ちょっと変だ。



神楽ちゃんが早く くんに会いたいって言うんで僕たちは朝イチで万事屋に帰ってきたのだけれど。
銀さんはもそもそと朝ごはんを食べていて( くんの作った卵焼きを凝視しながら)(つまり くんの方は見ずに)、それをキラキラした目で見つめる くん(しかも銀さんの浴衣装着)を見てしまって僕はちょっと、うっ、ってなってしまったのだけれど。


でも僕たちが帰ってきたのを見ると くんはぱっと立ちあがって玄関まで走ってきて、おかえりなさい!って言ってくれた。
神楽ちゃんが(頭の包帯が眼に痛い) くんに飛びついて(それはもちろん抑えられた行動だったと思うのだけれど) くんが玄関に倒れこんで、僕と神楽ちゃんはわーわー言って、なんとか くんが意識を失わずに済んで、定春を見て感動していて、定春に懐かれて僕らがまた騒いで、そう、その時の。


その時の、銀さんの、目が。


僕たちとわいわい言ってるときの、 くんを見る、銀さんの目が。




くんが銀さんを見る、キラキラした物とは違う、熱っぽいような、ちょっと暗めの、じっとりとした、




「エロビ見てたときみたいな目してるネ」

「そうそう、そんな感じ・・・・・・って神楽ちゃんそんな決定的瞬間を見ちゃったのォオ!!?」




神楽ちゃんは後ろ頭を掻いてえへへ、という顔をする。

えへへ、じゃなくてェェェエ



「あのね、そういう時はじっくり観察しないでそーっとしてあげよう?そぉーっと襖を閉めてあげよう?」

「子供に見えるところで見てるマダオが悪いアル」



確かに!確かにそうですよ銀さん!エロビなんか神楽ちゃんが居ないときに見ましょうよ!せめて隠れて見ましょうよ!







・・・・・・・・・







定春がいるぞ・・・?

つまり、今は・・・・・・いつだ?



定春が万事屋に来たのっていつゥゥゥゥウ!!!


あああ家に帰れば全巻揃ってんのに!
家に帰りたい!帰って確かめたいよぅ!(一種のホームシック)



ちなみに定春は『防犯』(と書いて『近藤さんホイホイ』と読み、さらにそれを『ゴリラホイホイ』と読む)の為に志村家に行ってみていたようだ。
そんな話原作であったか?


まあその結果だが、当然の如く近藤さんは今日の朝無残な姿で見つかったそうだ。




それでも死んでない近藤さんが凄いのか、ギリギリで殺さない定春が凄いのか、明らかに致死量を越す出血をしても死なないこの世界が凄いのか。






それにしてもっ!定春可愛いなあ!!

物置くらいにでかい犬なんてかわいくねーだろ、むしろ怖いだろ、と思ってたけどね、懐かれると半端なく可愛いのよコレが!



でも、定春の鼻を撫でながらあたしははたと気付きました。



(そういえば、この犬、腹黒かったよね・・・)



何思われてるかわかったもんじゃねぇぇぇぇ!!!





ずざざざーっと飛びのくあたしに万事屋メンバーがぎょっとした(定春はきゅーんと鳴いて寂しそうな目をしたけど騙されるもんか!)。

す、すみません、ととりあえず謝ると何が?と銀さんが聞いてくれる。


何がって何が!?






・・・・・・・・・





俺が の作ってくれたご飯を食べていると奴らが帰ってきた。
早すぎんだよコノヤロー。


今日は多串君に事情説明を要求して場合によっちゃあ くんとあんなことやこんなことを・・・

アレ、俺、思考回路が変になってね?


前からこんなにやる気に満ち溢れてたっけ俺?

いやいやいや。

そんなことはなかったデスよ。


銀さんもうちょっと慎み深かったデスよ。




なんなんでしょーね、全く。





わいわいと騒ぐ子供らを見ながら俺はいつ多串君に電話しよーかと考えた。








・・・・・・・・・






僕と神楽ちゃんがこそこそ話していると、いつの間にか くんは銀さんの所に戻っていて(さっきの定春に対するリアクションは何だろう)朝ごはん、不味くなかったですか?と聞いていた。

あんなマダオにそこまでしなくてもいいのにと僕は思うよ。
大体ね、銀さんは甘けりゃそれで満足なんだよ。


でもそれを銀さんは適当にあしらうと(この身の程知らずめ!)じゃ、ちょっと銀さん出てくるわー、と言って万事屋のドアを出て行った。

今日は特別用事も無いはずなのに。
ってか仕事無いのに。

仕事ねぇぇぇぇ!!!!

プリーズ ギブ ミー マネー!!!



銀さんがどこに行くのかを くんは窓に貼り付いて見ている。


「ついて行けばよかったのに」

「付いて来るなって言われましたぁ」


窓に貼り付いたまま情けなさそうな顔をした くんを見ると銀さんに淡い殺意を覚えるのは何故だろう。

あ、そうか。
僕、久しぶりにこんな普通の人に会ったからなぁ。


こんな普通で、むしろいい人そうなこの年の近い男の子が、銀さんなんかのファンなのがムカつくんだろうな。

僕の普通を返せェェェ!!!


プリーズ ブリング バック マイ フツウ!!!



「あ、」


くんが嬉しそうな声を上げて、窓の外を見ると、銀さんがかったるそうに帰ってくるところだった。
早っ!
何しに行ったの!?


くーん、真撰組の電番教えてー」

「屯所の電話番号ですか?えーっと・・・」


くんは部屋の隅にあった小さい巾着を急いでとってくると、ごそごそと中身をあさった。


「あ、いーよすぐ分かんないなら」

「う・・・すみません、ないみたいです・・・」

「だいじょーぶ、一応はろーぺーじにも載ってるでしょーよ」


それだけ言って銀さんはもう一回出て行った。
つまり公衆電話ボックスに電話を掛けに行ったんだろうけど。

一応万事屋にも電話機あるのになぁ・・・






・・・・・・・・・







トゥルルルル・・・

トゥルルルル・・・

トゥルルルル・・・

トゥ


ガチャ


『はい、こちら武装警察真撰組屯所です』


真撰組に掛けると、出たのは多串君でも、沖田君でも、ゴリラでも(多分)ない、若い男だった。
にしてもよォ・・・


「ちょっとソレ言っちゃうの!?恥ずかしくねーの!?」


武装警察ってゆーの。
かなり恥ずかしい部類に入ると思うのだが。


『万事屋の旦那ですかっ!? は元気にしてます?』

「元気、ってウチが くんもらったの昨日じゃねーの・・・。で、おたくどちら様?」

『山崎ですよ』

「山崎・・・?山崎ねぇ・・・」

『覚えてないんですかぁ?ま、僕はどーせそんな感じですけど』

「ああああ!!!ジミーね!!!」

『どうせならそのあだ名の方を忘れて欲しかった・・・』

「ジミー、アレ、ホラ、多串君出しなさい。多串君」

『多・・・・・・ああ、副長でしたっけ?了解でーす』




ちょ、保留メロディがうるとらせぶんってどーなの?
かなり楽しいんですけど。




『何の用だ』

「ちょ、何の用だは無いんじゃないのセブン?一応おたくの従業員もらったんですけどー」

『セブンってなんだよ』

「ま、いーけど。でぇ、単刀直入にお訊きしますけどー、多串君、 くんとはヤったの?」

『ヤ・・・何をだよ』

「いやいやいやいや」

『・・・そんな訳ないだろう。 は、男だぞ?』

「えー、だって多串君が くんのこと陰間だって言ったじゃん」

『かげっ・・・い、いや、それは飽くまで憶測のひとつで』

「わかりましたぁ。じゃ、沖田君は?」

『・・・・・・』

「え、まじで?初犯じゃなかったの?」

『いや・・・分からん。やってないとは思うが・・・総悟だしな』

「沖田君信用うすっ」

『そういうわけじゃ・・・』

「ふんじゃあ沖田君電話に出してー」

『まだ帰ってきてない』

「じゃあケー番教えて」









『ヘイまいどこちらクソレストラン』

「・・・・・・沖田君?」

『なんでぇ、旦那ですかィ・・・いた電にいたずらで返そうというこの俺のお茶目心、分かって下せぇ・・・ところで俺は今、旦那の声は聞きたくねぇんで切りやすね』

「ちょっと待ったァァァ!!!」

『ったく旦那も無粋ですねェ・・・・・・俺はブロークンハートなんでさァ』

「おっまえブロークンハートは くんでしょーが・・・あ、そーか、そうでもないの?ちょ、どーなのそこらへん」

『どーゆー事でィ』

「だからァ、沖田君と くんの関係はどのよーな物なワケ?」

『ああ!なるほどねィ・・・言ってもいいんですかィ?』

「どーぞどーぞ。あ、できればヤってたかヤってないかまでどーぞ」

『そりゃあ毎晩毎晩』

「へー・・・。俺ァそれを額面どおりにとるけど、いい?」

『はい?』

「だーかーらァ、沖田君と くんがそんなんだったってこたァ、俺が くん好きにしてもいーわけだ、だろ?

これから毎晩俺が くんを好きにするけど、いーの?」

『駄目でさァ、それは』

「・・・・・・」

『正直に言いやす。

とは何でもありやせん。

土方コノヤローから何聞かされたか知りやせんが、 は・・・ただの男だ。

だから、 を傷つけないでやって下せェ。

俺が言うのもなんだが、 は・・・旦那に裏切られるのが一番こたえると思うんでさァ』

「・・・・・・」

『俺がやった事は丁度忘れちまってる。その傷を、抉るよーな事は、しないでやって下せェ』

「・・・沖田君」

『後生だ。お願いしやす』



あの沖田君が、携帯持って頭下げる様子まで手にとるように分かって、俺は、少しずつ事態を理解し始めた。



「・・・つまりだ」

『?』

「全ては多串コノヤローの思い込みのせーだってことだな!?」

『・・・参考までに、土方さんは何て言ってたんですかィ?』

君が、ワシントン大統領だってよ!」

『は?意味分かりやせん。ちょ、旦』


旦那の那を聞く前に俺は受話器を置いてやった。
へっへー、こちとら公衆電話だ。
掛けなおせないだろー。


自分でも子供じみたマネだとは分かってる。

でも、無性に悔しかった。

は、土方君に邪魔モノ扱いされたまま、沖田君に遠慮されたまま、このまま、


プルルルル
プルルルル 


「・・・へー、公衆電話って、こんな音で鳴るのねー」


意外と普通。



そして、沖田君の執念に乾杯。





モドル