どんどんどんどん
「姉貴ー」
大好きなひとがドアを叩いてる。
だけどあたしは無視をする。
「ねーちゃんって呼ばなきゃ返事しませぇん」
一、背が高い
一、ルックスもそこそこ(いや、なかなか)
一、手が大きい
一、体温が高い
一、優しい
一、喧嘩が強い
一、声が綺麗(うそじゃないって)
一、お洒落(ホントだってば!!)
一、口が悪い
一、すぐ照れる
一、照れると口数が多くなる、か、悪くなる、か、黙る
一、からかうとすぐ赤くなる
一、からかうとすぐムキになる
一、傷付いたフリをするとめちゃくちゃ慌てて機嫌とろうとする。
こんなうちの『弟(吾代忍)』は、まぁ、ひとことで言えば・・・・・・・・・・・・可愛い。
かなり可愛い。
食っちゃいたいくらい可愛い。
例え休みの日の朝(時刻は13:34)、のんびり自室で睡眠を取っていた(惰眠を貪っていた)のを邪魔されたとしても!
「ねーちゃん」
弟の『ねーちゃん』は本当に耳の保養になる。
だからあたしはもう少し居たかった夢の世界から抜け出してあげるのだ。
「入っていいわよーぅ」
うぬぬ、と伸びをしながらあたしは答える。
忍はチ、と舌打ちをして(照れ隠しだ)ドアノブを回してあたしの部屋に入ってきた。
「ちょ、おま、まだ着替えてねーじゃねーかっ!!」
あたしと目が合った瞬間真っ赤になる忍はもう、それはもう、本当に可愛い。誰がなんと言おうと可愛い。
いいじゃなーい姉弟なんだから、それにおねーちゃんのことをお前とか言わないの、とあたしは忍を諭す。
「ところでなぁに、どーしたの、忍」
「・・・・・・チョコ」
忍はあたしの格好を諦めたのか、目を逸らしながら両手をジャケットのポケットに突っ込んで、ぼそっと呟いた。
チョコ?・・・・・・あああ、今日はそうか、そんな日だった。
「動詞を言いなさーい動詞を」
「あァ!!?・・・あンだよ『どーし』って」
ぷぷー。わが弟ながら馬鹿すぎる。
まあ、そこも可愛いんだけど。そこも可愛いんだけどーっ!!!
くつくつ。
あたしは毛布をだきしめて笑う。
「かわいそーに・・・今年もおねーちゃんからしかもらえないのねー」
憐れみの表情を作ってみせる。
「っせーなァ・・・」
「よしよし。じゃあここに座んなさい」
ぽんぽん、とベッドを叩くと、忍は一瞬躊躇して、ドサリと(でも端っこに。シャイだからこの子)腰を下ろした。
あたしは毛布からするりと抜け出して弟の横に座る。
「おねーちゃんねぇ、今年お仕事忙しかったからァ、バレンタインデー覚えてなかったのよぅ」
「あー・・・じゃァ」
じゃァいい、と言い掛けた忍の首に手を回す。
忍は、い゛、みたいなひきつった声を出して固まった。可愛い。
忍の太くてがっちりした首にぶらさがるようにして、忍の顔を引き寄せる。
そうして、至近距離でにっこり笑って、『い』の形をしたままの忍の唇に、かぷりと噛み付いた。
うちゅう。
ぺろり。
音が出るほど吸い付いて、仕上げに下唇のピアスを舐めて、あたしは忍から離れる。
呆然と虚空を見つめて固まる忍。可愛い。
「だから今年はコレで我慢ねー」
わしゃわしゃと金の短髪を掻きまわしてやる。
忍の目がこっちを向いて、目が合ったのであたしがもう一回にっこり笑うと、忍は顔を真っ赤にした。
ぼん、って音が聞こえた気もする。
いくつになってもうぶなんだからこの子は!
まあそこも可愛いんだけど!!そこも可愛いんだけどーっ!!!
「あ、あああああ姉貴ィ!!?」
「なぁに?一回じゃご不満?(ねーちゃんって呼びなさいよ)」
あたしが訊ねると忍は口をぱくぱくさせた。
金魚みたい。か・わ・い・い!
「ンな訳ねーだろぉがっ!!」
「そぅお?」
首を傾げると忍は、だーっ!とか叫びながら頭を抱えて、二つ折りになってしまう。
照れてる照れてる。可愛いー。
ほんわーと和むあたし。
忍は頭を抱えたままぶつぶつぶつぶつ。
「姉貴」
「・・・・・・」
「・・・ねーちゃん」
「んー?」
「誰でも彼でもこんなことやってんじゃねーだろーな?」
「こんなことってー?」
「いやだからよ、何かモノの代わりに、き、きき、キス・・・とか」
ああもう!と言って忍はまた顔を赤くする。
かーわーいーいっ!!!
「やーだぁ、忍にしかしないわよぅ」
「そっ、それはそれで」
マズいんじゃ・・・と口ごもる忍のほっぺたを指先でつぅーっと撫でる。
忍は顔をしかめた。
「あのねー、忍くらい可愛い男の子なんてそうそう居ないのよー?」
「・・・・・・可愛いって・・・」
忍はちょっと沈んだ声を出した。
そういえば昔から、あたしが可愛いって褒めると、可愛いんじゃない、カッコイイんだって言ってたっけ。
「う、うそうそ。忍はかっこいーのよっ」
「・・・明らかにそっちが嘘だろーが」
そう言いながら忍はちょっと元気になったみたい。
単純で、おばかで、すんごく可愛い、あたしの弟。
「お返しはちゃんとくれるよねぇ?」
「あァ、やるやる」
「・・・・・・キス?」
「バっ!!!ちっげーよっ!!」
「・・・・・・ちゅう?」
「姉貴っ!!」
「ね・え・ちゃ・ん!お姉ちゃんでも可」
忍は、ハァーっと溜息をついた。
コラコラ。幸せが逃げていきますよぅ。
「・・・・・・ねーちゃん」
「おねーちゃんねぇ、チョコだったらごでぃばが食べたいなぁ・・・」
3月14日に、弟はちゃあんとごでぃばを買ってきました(しかも結構大きい箱入り!)。偉い偉い。
なでなでしてお礼を言うと『別に・・・』って言いました。
大すきーって言ってほっぺにちゅうすると、あああああ!!って叫んでました。
まったくあたしは、いつになったら弟離れができるのでしょう?
(2009/01/24ETC様提出) (お題配布元Fortune Fate様)