思わぬところに転がっていっていた。既に。
銀さんとバイクの二人乗りしちゃって、テンション上がりすぎて気を失う寸前で、原付は万事屋に着いた。
はーい くん、着きましたよォ、なんて言う銀さんに大好き!が込み上げる。
抱き付きそうになったが我慢だ。
原付でこっこっこっこ、こ、ここここ腰に!腰に手を回してしまったのよ既にあたしは!

銀さんは、今日は新八も神楽もいねーから、とあたしに言って、なんで?とかうわあ緊張するー、とか思いながらあたしは銀さんのあとにおとなしく着いていった。
アレ、俺、神楽と新八、紹介したっけ、と首を傾げる銀さんに、存じておりますと返しながら、あ、あたし怪しいと思って、病院の時に!と慌てて付け加えた。

あー、そっかあの時したっけな、と銀さんはこきりと首を動かす。


さあやってきちゃいましたよ万事屋!
土方さんには偉そうな事言っちゃったけど、休暇は嬉しいのさ!
銀さんと過ごせる休暇だよ!


でも、このまま首を切られそうじゃん、と思うのはあたしだけでしょーかっ!!!


はは・・・ははは・・・・

まー、あたし居ても、なんの役にも立たないし?


ちょっぴりシリアスになったところで、銀さんが、アイス食べる?とアイスを出してきてくれた。
うん、アイスはオールシーズンオッケーだよね!

マロンのこっくりとした味を噛み締めていると、銀さんが一口ちょーだい、と言うんで、ちょっと家族みたいなアイスの交換をしてしまったよ!
ふふ!


「銀さん くんの為に張り切ってお風呂洗っちゃったからァ、お風呂入る?」

「えええええ!!いっ一番風呂なんてそんな、もったいないですよ!」

「いーからいーから」


ホント銀さんは優しいなあ・・・。

ところで。

あたしは屯所に居るときは『夜中に一人で風呂に入るのが好きなんです』とか訳の分からない言い訳をして、『お風呂でバッタリ★』事件を回避してきたわけだが。
万事屋ではどうしよう。

ここ、言っちゃあなんだけど、むしろそこがいいんだけど、狭いし。
風呂のドアひとつ開けたらちっちゃな脱衣所挟んですぐ廊下だし。


・・・・・・まー・・・いーかーぁ


天性の楽天主義は、まぁ、治らない、だろうとは思っていたけれど。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







(あー・・・失敗した)


を迎えようってぇことで、あんまりわいわいするのもなあ、と思って新八の家に神楽を預けていた(もちろん神楽はゴネにゴネた。『銀ちゃんだけずるいネ!』って)。
のだが。

銀さん、絶賛後悔中です。


会話が続かない、とかじゃない。
銀さんファンを自称してるだけあって、 君は次々に質問を思いついてくれます。
しかも答えにくい質問は一切しません。
何、この子、空気読みの達人!?


だから、そうじゃなくて、まあ俺が風呂に入らせたのが悪かったんだけど。


(あああああああ、失敗した)


『俺の』浴衣を何十センチもたくし上げて着付けて、長めの髪と、頭のネットが濡れないように上にあげて、でも少しほつれた後れ毛が白いうなじに張り付いて、血色のよくなったぷるんぷるんの唇とか、身体全体から立ち上る風呂上りの香りとか、


(相手は男だっつーの)


君が目をキラキラさせて折角質問してくれてるのに、その質問が耳に入らないほど理性を乱されている自分にほとほと呆れる。


(もともとはさァ・・・多串君のせいだよねェェェ!!!?)


天気の悪かったあの日、沖田君の弁護と懺悔と言い訳とを何故か俺にしにきた土方君が事情をくだくだと言ってる中に、 の素性の話があった。


『空野は、おそらく、陰間だったんだろう』


それを聞いた俺はかっとなって、んな訳ねーだろ、と叫んだ。
は、そんな世界からこの世で最も離れてるんじゃないかってぇぐらい綺麗で、真っ直ぐな目をしていたから。
陰間なんつって言って、沖田君の行動を正当化しようとしてるんじゃないかってそう思うと、心底ムカついた。


『考えてもみろ。空野が屯所に来たとき、あいつは甚平一枚だった。

その服装には異常なほど不釣合いに、肌が荒れてねェ。・・・・・・いや、そんなレベルじゃねーな。そこらの女よりよっぽど綺麗な面ァしてやがる。

金も身よりもねーただの孤児なら、あんなに小奇麗なわけがねぇ。だからといって武道も商業もできやしねぇ。まるでどっかいいとこ坊ちゃんかなんかみてぇにスレてねぇし、だから総悟はふざけて坊ちゃんなんて呼んでたが、んな筈はねェ。

・・・・・・いくら調べてもなんも出てきやしねーんだあいつに関しては』


だからおそらく、小さいころにどこかの富豪か茶屋に売られ、今まで大切に囲われてきた陰間だろう、と奴は言った。

かげま。
オトコに春を鬻ぐ、オトコ。


確かに 君は見事に女顔だし、すっきりしたいい顔してる。
多串君が何度も言ってたとおり、肌が驚くほどきれーだ。
鍛えた事のねェよーな細っこい手足は確かに、征服欲を掻き立てられなくもな・・・・・・くもな・・・くもなくもなくもなくもナイよ!?

ナイナイナイナイ

いくらモテないって言ったって銀さんは女の子がいいですぅ。
うん。
やっぱァ、女の子じゃないとォ、ほら、銀さんの好きなナース服プレイとかできないし?


・・・・・・イヤイヤイヤイヤイヤ。

ならアリかもしんねーなんて思ってねーよ?
メイドとかもいけるとか思ったりしてねーよ?


ってゆーかァァァア!!!いっつの間にプレイの話にまで進んだんですかァァァアァア!!?
顔に出てないよね、出てないよねコレぇぇ

ハイすとーっぷ。

ストップねー銀さん。

これ以上想像しちゃだめよー。

オトコどーしなんて気持ち悪いだけよー。

・・・・・・。

・・・・・・。



俺、とりあえず風呂ォ入って来るわ。

煩悩ーカッコ笑ーを振り切るために!!

身の危険を察知済みなのか同じソファーに座ってるのに銀さんから離ーーーーれたとこに居る の視線を感じながら立ち上がる。


「銀さん?」

「風呂入ってきまァす」

「あ!すみません一番風呂頂いちゃって!しかも話ばっかしてお引止めしちゃって!銀さんと話してると思ったらつい・・・」


申し訳なさそうな顔をしながら、でも幸せそうに は言う。
じゃあもっと触らせろよな・・・・・・って違う!コレは違うの!身体的なアレじゃなくて精神的にこう!もっと歩み寄ってくれれば、みたいな!


「じゃあお布団お敷きしておきましょうか?」



・・・・・・『オフトンオシキシテオキマショウカ』?

とっさに脳内変換ができなかった。
一秒後くらいに
オフトン=お布団
オシキ=お敷き
だと理解した俺は本格的に固まる。

・・・・・・誘ってんのォォォォオォオオ!!!??

いやいやいやいやいや!

コレはそーゆーアレじゃないって!

くんの単なる親切心だって!


風呂→布団→(自主規制)


的なアレでは断じてないって!


大体ねー、 くんをそういう子だと思うからいけないんですぅ。
多串君の単なる推測に過ぎないんだしィ?

ただの男ガキだと思えば何ともねー・・・

・・・・・・。



一旦思っちゃうとダメなの!脳の切り替えができないの!


・・・新八だと思え新八だと!!


・・・・・・。
ごめんなさい無理です


「銀さん?寝室は、どちらですか?」


だぁかぁらぁ!
誘ってるんですかァ くん?
俺がソファーから立ったんで今や俺の傍まで寄ってきて顔を見上げている

風呂上りの湯気の名残みたいな香が鼻に絡む。
この角度からだとちょうど浴衣の奥の滑らかな白い肌がよく見えて、もしや計算づくなのではないかと・・・・・・


あ、なーんだ。


そーゆうこと。


陰間、だもんね。


お客取らないとダメだもんね。


『お代は身体で』、ってヤツか。


なんだなんだ。



俺は身体の火照りをそのままに、頭の一部が急速に冷えていくのを感じた。


そういうことなら、頂いても問題はないんじゃね?

銀さん、それならヤれないなんつう、優しいスピリットの持ち主じゃないから。
お店のねーちゃんはダメなんつー、綺麗な身体じゃないから。


万事屋だってよぉ、ただでやってる訳じゃねーのよ。
くんが真撰組のお給料貢いでくれるってんなら別だけど、男一人養うんだから、それなりにお代は頂かないと、ねえ?


何も返事をしない俺を怪訝そうに、そして徐々に怯えた目で見つめる に視線を落とす。

どーせそれも演技なんでしょー?

俺は苛立ちを抑えながら の合わせに指を掛けた。
自分の浴衣を脱がしてるみてぇで、妙な気分になる。


「ぎ、銀さん、ふ、布団は誰にも触らせない派ですか!!?ご、ごめんなさい俺知らなくて!!」


が慌てたような口調で言うのを、どこか冷め、全体的にはかっと燃えたような頭で聞き流す。
す、と前を持ち上げたところで、 の首筋に妙なモンを見つけた。

湿布。水で濡れてもふやけないタイプ。今まで気づかなかったのは髪で隠れていたからだろうか。


「これ・・・何?」

「へ?・・・ああ、湿布ですか?」


があからさまに安堵する。


「俺が馬鹿やったときに多分ここも打ったんでしょう。山崎さんが貼ってくれました。鏡の前で剥がさないように、ってアレ、なんかのおまじないですかね?」


俺はその肌色の、しかし肌色とは言っても の白い肌からははっきりと浮いている湿布の端を摘んだ。

ぺり、

端っこを少し剥がして、小さな鬱血痕を発見して、ああ、これは、と思いながら、さらに剥がす。
規則正しく曲線を描いて点々と並ぶ鬱血痕。

歯形、だな。

沖田君か。


「ぎ・・・んさ・・・くすぐっ・・・たいです、ひゃ」


は俺が剥がすのを身を固くして耐えていたが、最後に湿布が離れる瞬間にぶるりと震えた。
なんなんだろうこの色気は。


先ほどの多串くんとの会話の中じゃ、 は自分でなんかやらかした事になってた。
つまり、沖田君の暴走事故は、 の記憶の中にはもう無い?

あー・・・後で多串君を問い詰めなくちゃならねーな。

でも、沖田君の暴走の記憶失くしてるとしたら、過去、 が陰間、だったとして、その記憶も失われてるんじゃないか、その、つまり、ポルノな方向な事は。


そうすっと、 のこの行動はもしかすると長年身に着けてきた習慣のようなもので、俺はそれをやめさせる義務があると思う。
いや、万事屋の中で、銀さんだけにするなら問題は全くないんだけども。


落ち着いてきた頭の中でもたげてきた一抹の不安。


くんは、ホントに俺の事好きなの?」


その途端 の端正な顔が真っ赤に染まったのにはビビった。
口をぱくぱくさせて、 は俺を凝視している。


「すっ、好きって!いや、まあ好きですけど!!」


叫ぶように言った後に は勢いよく顔を背けた。
照れてら。

これも全部演技なんだろうか。


首と耳まで紅く染めた を見下ろしながら俺は思う。



ここまで見事で、可愛くて、愛しさを感じる演技なら、銀さん、喜んで騙されてやろうじゃないの。







2008/01/21改訂

モドル