目の前で花火は弾けて、はじけた花火はキラキラと降る。
キラキラキラキラ。
キラキラ降っていた花火が、ザーザーと流れ始めた。
ザーザーからごうごう。轟々。
轟々と上から下へ。下から上へ。
それに逆らうように左に右に空間が歪む。
ぐにゃり。
曲がる。
曲がってあたしは体も歪んだ気がする。
いや、歪んだ。
目が回る。
流れる花火が風景を映す。
高速で。
ぱっぱっぱ、と映っていた風景も粒になって流れ始める。
ざあざあざあざあ。
色色色色色色色色
色の粒が線になって面になってぐにゃぐにゃこねられる。
急に足元が消えたような気がして叫び声も上げられないまま崩れ落ちる。
ちゃんとそこに床はある。
カーペットだった筈の床に爪を立てようとしてもつるつる滑って立たない。
体が一方から一方へ押し流される。
怖い、怖い、怖い、怖い、でも、
声が出ない。
ばたんばたんと床が波打つ。
頭ががくがく揺れる。
ぐるぐると世界が回る。
左か右か。
上か下か。
髪の毛が逆立・・・ってない。
頭がおかしくなりそう、だ。
あたしの手はどこ!?
足は!?
目はついてるの!?
耳を確かめようとしたとき、ちりり、と新しい音が聞こえた。
ちりり。
くっきりとした一点が現れた。
流れない、歪まない、動かない、小さな強い明るいくっきりした粒。
ちりり、ちりり、ちりり、ちりり。
次々に固定されていく小さな粒。
ちりりが集まって、ざわざわになる。
ざわざわが集まって、
ざっ
下から上へ。
あっという間に景色が固定された。
やっと。
うううう。
熱くなった頭をふらりと動かし、周りを眺める。
あたしの下には柔らかなベージュのカーペット。
あたしの右には暖かそうな羽毛布団が掛かった低いベッド。
あたしの左の壁の上の方にはちょっと洒落た時計。
あたしの前には窓。空が見える。
部屋だ。
ここは部屋。
ありふれた、ただ少し居心地の良い、部屋。
体が重い。
頭が熱い。
布団が見える。
ああ。
これは。
寝るしか、ないでしょう。
「冷蔵庫の、野菜室」
それだけを覚えていようと最後に呟いて、あたしはずるずるとベッドまで這っていく。
ひんやりとした羽毛布団。
熱い頬に心地よい。
ああしあわせ。
しあわせ。