「笹塚さん・・っ・・・・」
ジャンプ抱えて、部屋にこもってあたしは、ぼろぼろと泣いた。
悪いかよ!二次元の人の追悼して悪いか!!
つ、ついと、追悼、って・・・・・・うああああああああああ!!!
ちゃんと大学は行ってるからあ!
なんとか行けてるから!
受講中に突然泣き出したりしながらだけどちゃんと行ってるから!
土日ぐらいは引きこもらせろ!
「笹塚さん・・・」
笹塚さん、なんで、あなたは。
独りで、
勝手に、
死、
「嫌だあ」
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
あいつを満足させて、
それで終わりなんて、
酷すぎる。
酷すぎる。
いいように弄ばれて、
嘲笑われて、
なにもかも奪われて、
悔しい。
本当に悔しい。
笹塚さんの家族を奪って、
笹塚さんの希望を奪って、
笹塚さんの未来を奪って、
笹塚さんの人生を奪って、
大学生だった笹塚さんの、輝かしい未来への希望あふれる笹塚さんの、あの、笑顔を奪って、
そして、嗤う、な。
笹塚さん、悔しくなかったの?
憎んでたんでしょ、殺したいくらい憎んでた。
それなのになんで笑ったの。
笑って死なないで。
せめて悔しがって、
もっと生きたかったって、死にたくないって泣いて、
泣いて、死んで、
笑って死なれたら、苦しいじゃないか。
一緒にやってきた刑事一行も、
なんだかんだで仲良くなってた探偵一行も、
笹塚さんのことをしっかり見てたのに、話してるつもりだったのに、
笹塚さんは最初から最期まであいつのことしかみえてなかったんかなあって、
寂しいじゃないか。悔しいじゃないか。
なんで気付いてあげられなかったんだろうって、辛いじゃないか。
「ふ・・・うう・・・笹塚さん、なん、で」
なんで!
独りで全部全部抱え込んで、
勝手に、
笑って、
「なんでしんじゃうんですかあ」
自分が死ぬのはいいとして、なんて、言って、
これでよかったんだ、みたいに、笑って、
どれだけ貴方が皆から愛されていたか、
なんて気にもとめないで、
この世と笑ってお別れする、なんて、
そん、な、こと
「嫌だいやだいやだ、あ」
あたしは壁を滅茶苦茶に蹴る。
駄々っ子みたいだとは分かっていた。
受け入れないと進めない事は分かっていた。
・・・・・・あたしはジャンプを、買えていない。
笹塚さんが悲惨というだけの人生を歩んできたわけではないことは分かってる。
ちゃんとそこには笛吹さんとか石垣さんとか弥子ちゃんとかネウロとかとの関わりがあって、多分心の中だけでも、ちょっとだけでも、笑ってくれたことはあって、
だけど。
そんな、彼の少しの、平和な世界への未練、を、も、吹き飛ばしてしまったあいつが憎いんだ。
どうしても譲れないってさせたあいつが憎い。
なんで
「笹塚さん、を、かえ、せ」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
耐えられない耐えられない耐えられ、ない
「い、たい」
痛い。
刺すような痛みを胸に、いや、全身に感じてあたしは、上体をゆらゆら揺らす。
それでも痛みは消えなくて、あとからあとから、涙が流れた。
ひっ、く
しゃくりあげてもしゃくりあげても痛い。痛い。痛い。
死
って
酷く
酷く
痛いものだ
痛いものだ
相容れない
痛いものだ
悔しくて、悲しくて、腹が立って、哀しくて、
もう一度、彼の名前を呼んだ。
「笹塚、さん」
ガッシャーンッ!!!!
窓ガラスが割れる。
大きな何かが部屋に飛び込んできた。
「あー、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン・・・・・・プ」
かの有名な大魔王のセリフををローテンションかつ最後に変な音をつけて真似して登場したのは・・・・・・おっさん?
泣きすぎと驚きで声が出ないあたしをおっさんは見下ろす。
「えーと、うん、神様ですよー」
えええええええ。
「読者のみんなのお陰で40周年!少年ジャンプの神様でーす」
えええええええ。
「私はですね、一時間に10回以上『ジャンプまじ神』って言った100万人目の人の元に訪れまーす」
「・・・・・・言ってないですけど」
「うん、意外とね、みんな言わないモンだからね、一人の登場人物に10回呼びかけた人も含めることにしたのー・・・・・・と、いうことで
さんおっめでとーございまーす。あなたは『ジャンプまじ神って一時間のうちに10回も言った(登場人物への呼びかけ10回でも可。)100万人目の人で賞』を授けられましたー」
「・・・・・・」
「あれ、リアクション薄い」
「うっわあすごーいじゃあとりあえず窓の弁償して下さい。そしてここから出て行って」
「うわ、驚きの部分超棒読みそして後半ひどっ。あのねー、
さん、信じてくれてないでしょー、私のこと」
「超信じてますだから窓の弁償して帰れ」
「嘘だあ。じゃあいいよ帰りますよ・・・・・・ちょ、なんで私の肘掴んでるんですか?やっぱ副賞が楽しみ?楽しみなんでしょ?」
「ま ど の べ ん しょ う」
「な!まだそれを言いますか!・・・・・・もっといいものですよー」
「そんなにいうんなら・・・・・・なんですか、10文字以内で述べよ」
「短っ!」
「冗談ですよ」
「ああよかった。副賞はですねー。なんと!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「なんですか早く言って下さいよ」
「分かって下さいよこのタメたい私の気持ち!」
「はいはい。で、なんですか?」
「ジャンプの中の漫画の好きな世界の好きな時間軸に好きな設定で入り込めます」
「・・・・・・」
「えええええ。リアクション薄っ」
「・・・・・・」
「ちょ、なんか言って下さいよ」
「冗談で言って良い事と悪いことがありますよね・・・・・・」
「冗談じゃないですよ」
「ホントですか・・・・・・?」
「はい」
「じゃ、証明して下さい」
「つまり今すぐ飛びたいってことですね?」
「ええ、おじさんができるなら」
「おじさんって言われちゃったよ・・・・・・まあ40だしな・・・」
「そんな普通のおっさんみたいなこと言わないで下さい。信用する気持ちも薄れます」
「すすすすんまっせん!!・・・・・・じゃあ漫画を選んでください」
「魔人探偵脳噛ネウロ」
「ええええええ!今あの展開のアレにですかあ!?」
「だからこそですよ・・・・・・あ、漫画の展開変えるような行為は禁止ですか?」
「いや、大丈夫です。あなたを投入したところで、もう全ては狂っていくのですから」
「嫌な言い方ですねーソレ。そんなに嫌ならやらなきゃいいのに」
「いいんですか?」
「駄目です」
「・・・・・・」
「設定は、ですね、笹塚さんの隣に住む女性、27歳、未婚、超絶美人、スポーツ万能でお願いします」
「いやいやいやいや年齢とか外見とか身体能力とかは変えられませんよー」
「まじでか」
「私にはそんなに力が無・・・いやいやいやいや」
「はぁー。しょうがないですね。わかりました。時間軸は・・・・・・」
「あ、章の題名でも言ってくれれば」
「・・・・・・」
な、何故だ!思いつかない・・・・・・かといってこの手に持ったジャンプの章の名前を言っても仕方が無い。
あたしに素晴らしい運動神経(人間を遥かに超えた)がないかぎりこの章のどこの空間に落ちても笹塚さんを救うことなんてできねーよ。
「あれ、思いつかないんですか?しょうがないなあ、じゃあ私が適当なところに送りますよ?」
「適当は駄目。できるだけ今と離れたところでお願いします」
「努力します・・・・・・ではいきますよー」
あたしはぎゅっと目をつぶった。目を開けたときにおっさんがケラケラ笑ってあたしをバカにしているという可能性も捨てきれないけれど、藁にもすがりたかったんだ。
笹塚さんは、死なせない。
「あ、そーだ」
おっさんが気の抜けるような声を出す。
「あなたを飛ばしちゃったら、こっちの世界の人は困りますかねえ?」
「いや!全然困らないっすよ!」
今一瞬両親や友達の顔が走馬灯のように駆け巡ったが気にしない。
笹塚さんを救うためなら仕方ない。
「いや、困るでしょうよ」
「困りませんよ」
「困りますよ」
「そんなことないです」
「あります」
「ないです・・・・・・もしかして、おじさん、仕事サボろうとしてるんですか?」
「え、いや、違いますよ!あなたを分身させればいいんですよ」
「分身!!なーんだ、そんな解決策があるなら早く言って下さいよ」
「ふっふっふ。覚えたてのこの技、試してみたかったんですよねー。では行きますよっ!!」
(実験台かよ!!)
ズガガガガーン
つっこみは間に合わず、おっさんがどこからともなく取り出した杖を振り回し、あたしの目の前でピンクの花火がはじけた。
モドル