修学旅行で寝言言わないためにはどうすればいいかな
わけがわからなかった。

いきなりお嬢さんを僕に下さい発言をした銀さんもあたしに謝っている土方さんもあんなにあたしと一緒に居たがっていたのにまるであたしが悪いみたいに睨み付けてでも最後は目を逸らして出て行った沖田さんも。



本当は、わかったのだけど。


つまり土方さんはあたしが真撰組に相応しくないことは重々分かっていて、あたしが銀さんを好きなのも何故か知っていて、あたしが居ないとこで、勝手に沖田さんを説得しようとしていたってこと。

そりゃァあたしは銀さんが好きだけれども。
好きだけれど。
今微かに怒りを覚えた銀さんの身勝手さでさえ、神聖なもので。
彼の領域にホントに入っていいのか、と思ってしまうわけで。

特に、万事屋は、銀さんの新しくて大事な家族だから。


そりゃァあたしは真撰組でやっていける自信がなくて、どうしても屯所を家だと思えなくて、気を張って、気を使って、疲れていて、帰る家が欲しいと思っていたけれど。
それでも真撰組のみんなは優しいし、好きだし、見回りは外してもらってパシリに努めようかと思っていたのに。


「どーゆーことって

「なんで、」


でも言葉が継げなかった自分が悔しい。

自分のことを勝手に自分の居ないところで決めないで欲しいって、なかなか言えないもの、なんだ。

まるで我が儘なような、子供のような。


「土方さん、俺はっ」


ああどうしたらいいんだ。また泣きそうになって眉間を押さえて止める。
自分の言いたいことが言えなくて泣くなんて小学生かっつうの。


「俺は、真撰組が好きです」

「・・・・・・あァ」

「でも、俺は剣を使えなくて、それで」

「あァ、だから俺は「だけどっ」」


落ち着いた土方さんに凄くいらいらする。
土方さんが日頃余りにもあたしに合わせてくれていたからその分。


「だけど、か、勝手に話を進められているのは、いや、です」

「・・・・・・!」


土方さんが目を見開く。
ちったァ他人の気持ちも考えろ。ばーかばーか。


「俺だって、江戸の平和に協力したくて真撰組に入ったんです」

「・・・・・・知ってる」

「万事屋さんとは本来面識が無いはずです俺は。それをなんで」

「・・・・・・お前が、言うんだと」

「は」

「総悟が言うにはな、夜な夜な、呟くんだと」

「そ、それは何を」

「いや・・・だから・・・・・・万事屋の名ま・・・うん、」


土方さんが言いよどむ。
いや、うん、分かった。

そして、超 恥 ず か し い。

あらあら。それは、ナイ、な。
沖田さんごめんなさい。


「あー、分かりました。それで!なるほど。あ、なんかすみません」

「いや・・・・・・いーんだけどよ」


はははははは。
いやあまっじで恥ずかしいなあ!


「ちょっと何お前ら意思疎通しちゃってんの!?銀さんわかんないんですけど」

「大丈夫です銀さん。僕らの方がもっとわかってません」

「僕らでひとくくりにするなヨ」

「じゃあ神楽ちゃんは分かってんの!?」

「分かってるか分かってないかは問題じゃないネ。駄眼鏡と同じってのが問題アル」

「ひでぇぇぇ」


大好きな万事屋のコントが聞こえる。
ああやっぱり、
あたしの心は、ずうっとここにあったんだ、と思う。

じんわりとしっくりとくる、この空気。
初めてなはずなのに、なぜか懐かしい。


「銀さん」


白髪頭がくるりとこちらを向く。


「万事屋、入れてください」

「おう」


にやりと笑った銀さんに背筋がぞくぞくする。
わくわくする。
後ろでにっこり笑う新八に心ほどける。
抱きついてきた神楽ちゃんに、鳩尾が痛む。
ギブギブギブと言いながらあたしは声を上げた。


「土方さん」


ぼうっとしている土方さんを世界に引き戻す。


「引き続き、真撰組で雑用させて下さい」

「あァ、分かった」


あたしは毎朝屯所に行く。
雑用をする。
掃除とか、洗濯とか、料理とか、買出しとか。
肩たたきとか、書類並べとか、靴磨きとか。
稽古つけてもらったりもして。

そして、家に帰る。

万事屋に。


銀さんと、神楽ちゃんと、時々新八の待つ、万事屋に。





なんて素敵な、なんて贅沢な毎日だろう!

こうなったらもう、いつか来るかもしれないリミットまで、精一杯楽しんでやる!



そう、厚かましい誓いを立ててあたしは、沖田隊長の機嫌をどうやって治すかについて、検討し始めた。


モドル