切れ長の目が大きく見開かれる。
「な、」
澄んだ声が耳を打った。
そうだ、この声。
俺が、ろくに話もしてねー、一回遭遇しただけの、野郎の顔を、なんで覚えてたか。
ろくに話もしてねー、一緒に町ン中走っただけの、弱そーなボウズを、どうして万事屋に引き入れるような真似をしたか。
妙にどっかズレた、この声のせーに違いねェ。
「なんで、銀さん」
高すぎる声に、不安定さを覚える。それが心地よいのは何故だろう。
こいつは、戦える人間じゃねーと思った。
腕よりも、脚よりも、まず、目が。
戦える目じゃない。
真撰組は腐っても武装警察だろーが。
だけど俺は、ただ、
「さー なんでだろーなァ」
それだけを答えて、
の頭に手を寄せた。くしゃりと撫でる、つもりで。
「・・・・・・」
す、と自然に避けられて、俺は小さく衝撃を受ける。
俺のその顔を見てか、
が不思議そうな顔をした。
それが無意識な行為でも、意識的なものでもイヤで、俺はその手をさりげなく
の体の脇に下ろす。
ぎし、
分かりきった、とは言い切れないけれどもほぼ100パーセントの確信をもって俺は聞く(だって俺Sですし)。
「で、どーなのおにーさん。入ってくれんの?ダメなの?」
が、
その瞬間を狙ったかのようなタイミングで、病室の現代的な引き戸が勢いよく開いた。
「
ーっ!」
「隊長!」
「沖田くん」
目が合うと、わざとらしく大きく目を開いて、後ろを振り向き、大声で叫んだ。
「土方さーん!
が旦那に襲われてやーす!!」
何ィィィ!?と、なぜかかなり遠くから、けれどもはっきりと多串くんが叫ぶのが聞こえて、案外愛されてんなァ、こいつ、と思う。
「・・・・・・何、泣かしてるんでさァ、旦那。・・・・・・俺の
を」
うってかわって低く落とした声と、ガチャリと安全装置を外した拳銃に、身構えた、のは、俺だけで、
はその瞬間笑い転げた。
「あっははははははは、は・・・い、痛、ぁ・・・・・・」
一息で笑って、痛さに顔を歪めている。オイオイ。
ひぃ、と痛いのか可笑しいのかまた喉を痙攣させて、
「お、俺の
って沖田さん・・・・・・くはっ」
どうやらこいつのツボらしい。
爆笑し損なう可哀相な
を眺めて俺がにやにやしていると、沖田くんが悔しそうな顔をしたのが目に入る。
「だって、
は俺の、だ」
油断していた俺をぐいっ、と押しのけて沖田くんは
に絡みつく。
それに別段驚いた風もなく、
は、わざわざありがとうございますこんなところまで、と礼を述べている。
お礼なんていらないでさァ。でも嬉しいです。
そんな会話で気が済んだのか沖田くんは
から体を剥がして立ち上がり、眠っている神楽をげし、と踏みつける。
神楽が怒って起き上がる。
ギャーギャーと始まった最強の子供同士の喧嘩の中で、俺は
にぼそりと尋ねた。
「何、お前ら デキてんの?」
「お前ら・・・・・・?」
「
くんと総一郎くん」
「そういち・・・・・・ええええええええ沖田隊長!?」
いやいやいやいやなんですかソレ、と
は若干引いた目で俺を見た。
だって恋人同士の会話みてーじゃねーかさっきの。
そういうと、
は、はは、と笑い、俺ぐらいしか、持ってないんですよ、隊長は。
と、よく分からない答えを返した。
何だソレ、と言いかけたところで、開け放しのドアに新八と多串くんが顔を出す。
「
くん、気がついたんですね!!」
心底嬉しそうな声。
その声で、やっと神楽は目を覚ましている
に気付き、ひゃっほーと叫んだ。
「万事屋ァよくもうちの可愛い部下に」
「ちょ、待て、ソレいつの話!?さっきのだったら総一郎くんの冗談だから」
「両方だ」
それはそうとココの部屋の騒動病院中に響いてますよ、と新八。
子ども達の元気な声が聞けていーじゃねーか、と言うと、よくありませんよ僕ら看護師さんに捕まって怒られたんですからね、と呆れられる。
ああそれで来るのが遅くなったのか。
もうちっと遅くても良かったのになァ。
「多串くん」
「あ?」
「
くんを、僕に下さい」
タイミング良く(か、どーかは知らねーが)、静かになった病室に、俺の声が響いた。
一拍置いてみんなが騒ぎ出す、前に、沖田くんがやけにあっさりと口を開く。
「ダメでさァ」
「総悟」
いなすような声を出したのは何故か多串くんで、沖田くんが反抗的な目を向ける。
「土方さん、
は俺のでィ」
「お前のモンじゃねーだろ」
は目を白黒させて多串くんと、沖田くんと、俺とを見ていた。
「総悟、俺たちは、武装警察だぞ」
「・・・・・・」
「
が万事屋に行きたがってて、万事屋が置いてくれるってんなら、」
「分かってまさァ」
沖田くんが荒い声で多串くんの話を遮る。
遮って、
をじっと睨み、一旦口を開いて、また閉じた。
「・・・・・・どこへでも行けばいーや」
「オイ総悟!」
スタスタと異常に速い歩みで病室を出て行った沖田くんを多串くんは引きとめ損ない(わざと行かせたようにも見えた)、溜息をついてこっちに向き直った。
「すまん
」
「・・・・・・」
「総悟には前から言い聞かせてたんだが・・・・・・聞かねーんだアイツ」
「土方さん」
口を開いた
のその声に、怒りが含まれているのをありありと感じて驚く。
「どーいうことですか」
モドル