病院の匂いが好きな人手ェ挙げてー

(・・・・・・ここ・・・・・・どこ)

目を覚ましたあたしは全く見覚えのない白い天井をぼんやりと眺めた。


真撰組、じゃない。

・・・・・・自分の家、でも、もちろん、ない。



(万事屋・・・・・・?)

でもない、気がする。

もぞり、起き上がろうと上半身に力を込めると、鳩尾に鋭い痛みが走った。


「ったぁっ・・・・・・!」


思わず声がもれ出る。


「おー。起きたかー」


それに答えるように、声がした。


(銀さん)


その方向に首だけ捻じ曲げると、丸椅子に座って、今、ジャンプから目を上げた、という風情の銀さん。


「具合はどーですかァ」


銀さんが目に入ると同時に、白い壁だの白い床だの白いシーツだの他のベッドだのそのベッドの上の明らかにお見舞い品と分かるぬいぐるみだの花束だのが見えて、ここはどうやら病院らしいと気付く。


「大、丈夫、です・・・・・・まだちょっと、痛いですが・・・・・・そもそも、なんでこんな大事に・・・・・・いや!有り難いのですよ!!あの、もったいないって言うか、わざわざって言うか」


あたしが自分で自分の言ったことにわたわたと弁解していると、銀さんは、ふ、と笑った。




ふ、って。





・・・・・・。




ぎゃああああああ!!!!かっこよすぎるぅぅぅ!!!鼻血吹く!!!





心拍数が一気に跳ね上がる。
魂が抜けそうだ。
ぎゅうっと心臓が締め付けられる。


「いやー俺もわざわざ病院はなァって思ったんだけどね、新八が『普通の人なんですよ!?既に慣れてる僕らとか真撰組とかとは違うんですよ!?死んだらどーするんですか!!!』ってうるさくてだなァ」


新八くんの口真似をする銀さんは可愛い。


「実際運んできてみても全然意識取り戻さねーし、神楽は泣き出すしよー」


銀さんの視線の先を辿ると、あたしの脚の辺りにうつぶせて眠る神楽ちゃん。
どーりで脚が痺れてる筈だ。


「泣きつかれて眠ってら」


その声には優しさがたっぷり含まれていて、いいなあ、と思った。

神楽ちゃんが、でなくて(いや、それも少しはあるけれども)、万事屋が。

お互いがお互い思いあっていて、そして知り合ったばかりのあたしにもこんなにも優しくて。


「こいつは、ペットと一緒に眠った時に、そいつを殺しちまったことがあるんだと」


ああそうだったな、と思い返す。
ウサギの名前も定春だった。


「だから怖くなったんじゃねーかな。お前さんがぐったりなったのを見てよ」

「・・・・・・すみません」

クンが謝ることじゃねーよ。むしろこっちが」

「いえ・・・・・・ありがとうございました」


幸せを分けてくださって、ありがとうございました。

帰らないと、いけない。
真撰組のみんなも心配しているだろう。


「あーそーそー。真撰組の皆さまには、連絡しといたから」

「え」

「つーかもうすぐ新八が連れてくんじゃね」

「え」

「アレ、 くんのおうち、真撰組だよなァ?」

「あ」


あたしの、うち?

真撰組が?


確かに、みんな優しくしてくれる。

沖田さんは友達みたいに接してくれる。

土方さんは怒ってくれる。

近藤さんは笑ってくれる。


だけど


みんなは


真撰組で。


昔っから、の、仲間で。

死線を一緒に越えた、同志で。


命を掛けることも出来ない、剣も持てない、あたしとは、大きな、大きな、大きな、隔たりが、あった。




「帰り、たく、ないです」

「な」


見回りを一緒にしてたって、もし不審人物を見かけたり、まんま攘夷志士を見つけたりしても、あたしにはなんにもできない。

足手まといにしかならない。


役立たず、以下。


「真撰組、は、俺のうちじゃ、」

「オイ」

「は」

「泣くなよォ」


言われて、気付いた。
頬を生温い液体が伝っている。


「何があったか知らねーけどよ」


銀さんの声。


「お前にゃあ真撰組は向いてねーよ」

「・・・・・・っ!」


息が、止まるかと思った。

胸が痛かった。

ぽっかりと何か、大きな穴が開いた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


「だからさ、 クン」


銀さんが丸椅子から立ち上がり、ジャンプを椅子の上において、ベッドの傍までやってくる。
あたしはとっさに身構える。
銀さんに対して、でなく、その言葉に対して。

銀さんの長い、細い、けれどもかっちりした身体があたしの目の前で折り曲がる。

降りてくる、銀色。



「万事屋に、入りませんかー」




低い声、

耳元で囁かれた、

想像できる限り最上の、

甘い言葉。







嗚呼、


逆転ホームラン






モドル